なぜVBAマクロは解読不能になるのか?コード考古学で仕様書なきレガシー構造を可視化する

「このマクロ、中身がどうなっているか誰も分からないんです」

DX(デジタルトランスフォーメーション)の相談を受ける際、私たちが頻繁に耳にする言葉です。長年、現場の業務を支えてきたVBAマクロやツール。しかし、システムの刷新や担当者の交代を機にその中身を解析しようとしたとき、そこには解読困難なブラックボックスが広がっていることが少なくありません。

今回は、なぜシステムは不透明化してしまうのか、そしてそれをどのように紐解き、再び「資産」へと変えるのか。私たちが実践している手法の一部をご紹介します。


なぜ「ブラックボックス」は生まれるのか

エディタを開いた先に待っているのは、数千行に及ぶスパゲッティコードと、すでに現場を去った前任者による独自の「マイルール」の数々です。なぜ、これほどまでに解析が困難な状態に陥ってしまうのでしょうか。

1. 「動けばいい」が生んだ、秘伝の継ぎ足し

最初はシンプルだったはずのツールも、長年の「場当たり的な修正」の繰り返しで巨大化します。元の構造を無視して If 文を継ぎ足し続けた結果、全体の整合性が失われ、誰も全容を把握できない状態に陥ります。

2. 「どこで何が起きているか分からない」変数の乱立

本来、その処理の中だけで完結すべき変数が、安易に「グローバル変数(Public変数など)」として定義されているケースです。一箇所の値を書き換えたつもりが、全く関係ないサブルーチンで予期せぬ副作用を引き起こす。この「修正の影響範囲が予測できない」状態が、リスクを極限まで引き上げます。

3. 条件分岐のネストによる論理の断片化

If...Then...Else が幾重にも重なり、さらにその中に別の条件判断が組み込まれることで、特定の処理が実行される条件を把握するのが困難になります。人間が一度に脳内で処理できる限界を超えた「論理の迷路」が、修正時の考慮漏れを誘発します。

4. 外部ファイル・外部参照への密結合

そのマクロ単体ではなく、外部の別のExcelブックや共有フォルダ内のCSV、あるいは古いデータベース(Accessなど)と複雑に連携しているケースです。「外部との接点」が不明確なため、環境移行の際にどこから手をつけていいか分からない状態を生みます。

5. 型定義の曖昧さとデータ整合性の低下

変数の型が明示的に宣言されず、すべての値が「Variant型(なんでも入る型)」で処理されているケースです。数値が入るはずの場所に文字列が混入してもエラーにならず、処理の後半で「原因不明の計算ミス」として表面化します。

6. 文脈を失った暗号のようなコード

変数名が data1, tmp_val といった意図の見えない命名であったり、なぜその処理が必要だったのかという「背景(Why)」がコメントに残されていなかったりします。文脈を失ったコードは、数年後の第三者にとってはただの暗号に成り下がります。


コード考古学の3ステップ:レガシー構造を可視化する技術

私たちは、こうした解読不能なプログラムを「コード考古学(Code Archaeology)」というアプローチで再構築します。単に読み解くだけでなく、埋もれた意図を発掘し、現代の資産として復元するプロセスです。

ステップ1:動作トレースによる「現状の挙動検証」

コードを一行ずつ読み解く前に、まずはプログラムを一つのシステムとして厳密に観測します。多様な入力パターンを流し込み、変数の値がどのタイミングで、どのように推移するかを記録します。これにより、複雑な条件分岐の中で「現在、実際に機能しているロジック」をデータとしてあぶり出します。

ステップ2:参照関係の「構造分析」

次に、絡まり合った処理のつながりを論理的な構造図へと落とし込みます。特に、乱立するグローバル変数の「参照元(読み取り)」と「代入先(書き込み)」をすべて網羅し、モジュール間の依存関係をマッピングします。この作業によって、不透明だったプログラムは「影響範囲が制御可能なシステム」へと姿を変えます。

ステップ3:仕様の「逆コンパイル」と明文化

最後に、解析したロジックを「業務上のルール」として再定義します。 プログラム上の記述を「もし商品Aであれば、計算式Bを適用する」といった、人間が判断できる言葉(仕様書)へと翻訳します。ここで初めて、現在の実務に不要なロジックを整理し、スリムで持続可能な設計へと再構築する準備が整います。


結論:属人化を排除し、システムを「組織の共有資産」へ

解読不能なコードを紐解くことは、単なる改修作業ではありません。それは一部の担当者に依存していた技術を組織の共有財産へと戻し、「不確実性の高いシステム」を「将来的な拡張に耐えうる基盤」へと変えるプロセスです。

「古いから捨てる」のではなく、そこに刻まれた業務の知恵を論理的に継承する。私たちは、お客様の大切な資産を未来へつなぐための、最も誠実な解析者でありたいと考えています。


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